竹中浩といえば、わが国を代表する白磁作家である。
白磁以外にも、染付、銹絵、色絵など幅広く手掛けているが、とくに氏の作る文房具は定評がある。 時々、茶碗を作っていることは知っていたが、送られてきた 「茶碗抄」を見て驚いた。白磁、青磁、鉄絵はもちろん、信楽、備前、丹波、越前、京唐津から黒楽、赤楽、天目、粉引までを本格的に作っていたからだ。師匠の近藤悠三も、その師匠の富本憲吉も、決して茶碗を積極的には作っていない。孫弟子にあたる竹中が、七十半ばを過ぎてから、こんなにも茶碗を作っていたことに驚いたのである。 その茶碗は、これまで竹中が習得した技法を基本として、その作風も竹中風を貫いている。だから、形の歪んだものや中心線のずれたものは見当たらない。それは、故意に歪ませると、そのわざとらしさがどうしても見えてしまうからだ。 茶碗の魅力は、茶碗から醸し出される清潔感にある。そして、なによりも無心であることだ。剣道少年だった竹中は、京都に上京してから居合を始めた。
無心の心は、その修行の中で体得したのであろう。その潔さがなければ、こんな茶碗は生まれてこない。
竹中が、裏千家十六代家元 坐忘斎千宗室氏に愛される理由が、そこにある。
森 孝一(美術評論家・日本陶磁協会常任理事)
撮影:内山純一
(1941-2024)
| 1941 | 東京都に生まれる |
| 1961 | 近藤悠三に師事 |
| 1970 | 京都山科に築窯 |
| 1996 | 京都府無形文化財保持者「陶芸」に指定される |
| 2011 | IAC国際陶芸アカデミー会員 |
| 2024 | 逝去 |
<展覧会>
| 1986 | 「白磁の美」展(九州陶磁文化館) |
| 1995 | 「ジャパニーズ・スタジオクラフト展」(ヴィクトリア&アルバート美術館・ロンドン) |
| 1996 | 「磁器の表現」(東京国立近代美術館工芸館) |
| 1997 | 「竹中浩展」(出羽桜美術館/山形県) |
| 2001 | 「竹中浩・やきものの美」(茶道資料館) |
| 2003 | 「白磁青磁の世界」(茨城県陶芸美術館) |
| 2004 | 個展(滋賀県陶芸の森美術館) |
| 2005 | 「コンテンポラリー・クレイ展」(ボストン美術館) |
| 2013 | 「伝統と創生展―京都府無形文化財保持者による一」(京都文化博物館) |
| 2014 | 「竹中浩作陶展」(福井県陶芸館) |
| 2015 | 「京に生きる琳派の美」(京都文化博物館) |
| 2016 | 個展「白磁と色絵」(LIXILギャラリー、東京) |
<受 賞>
| 1981 | 日本陶磁協会賞 |
| 2006 | 京都府文化功労賞 |
| 2016 | 地域文化功労者(文化庁) |