2020年 壺中居個展に寄せて
川 瀬 忍
ここ数年、翠瓷、藍瓷、赫瓷、そして胭瓷と、「色の世界」に嵌り込んでいた。
どこかで!と思いつつも、派手な色の影響なのか、
知らず知らずのうちに、色の誘惑へ、深くのめり込んでいくようだ。
限りない魔の世界である。
抜け出し難いことは知識では解っていたが、
自ら経験した。
実は、昨年の個展(妃子笑)を以て、とりあえずの区切りを付けることにし、
次回の個展は、青磁でと強く心に決めていた。
その中に、今回のコロナ禍が始まった。
加齢と共に、雑務に追われ、仕事場に入る時間が奪われ悩んでいたが、
作陶家にとっては、外出自粛は仕事場に籠もることとなり、
たっぷりと時間を与えられたのだ。
青磁の魅力を求める中で、自然界の造形に誘われ、美しい形を追い求め続けた。
今回、ふと立ち止まる機会を得、
素直な形とは?
自分自身が好きな青とは?
気が付くと、どちらも和様の雰囲気に傾いていた。
中国陶磁に憧れ続けているが、所詮は日本人だったのだ。
素直に進みたいと思っている。
昨2019年11月に「妃子笑【胭瓷】」の題下で、川瀬忍先生は長期にわたる青磁進化の研究成果である胭瓷(えんじ)の力作群を提示され、大きな反響を呼びました。
近年先生は胭瓷(えんじ)をひとつの頂点とした瓊瓷、翠瓷、赫瓷、藍瓷といった旧来の青磁イメージを払拭する独自の「青瓷」研究を孜々として積み上げられ、テーマを設定しつつ各技法による新作を世に問うてこられました。
この間、原点というべき青磁の研鑽は怠ることなく、却って基礎研究を深められたこと、このたび「温厳 涼雅」の題下にて壺と茶碗による最新作のラインナップをご覧いただければご納得されることと確信します。
今年はコロナ禍という非常事態下でのご制作でしたが、玉稿に述べられたごとく、お仕事の基礎を再確認され、制作過程の霊感と観察とに益々磨きをかけられたこと、青磁の無限の可能性を新たに発見されたこと等々、得るところが少なくなかったことと想像されます。
素材すなわち、磁土と釉薬の適性を極められて、白青磁(こちらは今回が初の公表となります)と4種に大別される色調による青磁の茶碗がメイン会場を彩ります。
窯変とは一味違う自家薬籠中ともいうべき制御された青磁ですが、新鮮さと奥深さとは無類のもの、現時点での「川瀬忍青磁」のひとつの頂点かとみます。
薬壺を彷彿させる共蓋壺、スケールの大きさをはじめ、ディテールの細心さ、足腰の強さ、独自の形成技術が一体となった力作群といえましょう。
先回までの多彩な色調による独特の「青瓷」から、「青磁」への回帰・再考・再生へと確実に進化=深化する、きわめて充実したラインナップとなりました。
基本を忠実に守りかつ深め、それに見合うテーマを設定し、倦むことなく追及して体現される、川瀬先生の最新のご研究=お仕事ぶりの精華を、ぜひ展覧会場でご高覧いただきたく、謹んでご案内を申し上げます。
2020年11月
ギャラリーこちゅうきょ
撮影:S&T Photo
| 1950 | 神奈川県に生まれる |
| 1968 | 祖父(初代竹春)、父(二代竹春)のもとで作陶を始める |
| 1978 | 日本工芸会正会員(2006退会) |
<展覧会>
| 1976 | 個展(寛土里・東京)(以後21回開催) |
| 1985 | 個展(壺中居・東京)(以後14回開催) |
| 1996 | 現代の陶芸美-凛-(滋賀県立陶芸の森) |
| 2003 | 白磁・青磁の世界展(茨城県陶芸美術館) |
| 2009 | 個展(Joan.B.Mirviss Ltd・ニューヨーク)(以後4回開催) |
| 2010 | -茶事をめぐって-現代工芸への視点(東京国立近代美術館工芸館) |
| 2011 | 川瀬忍の青磁 天青から静かなる青へ(菊池寛実記念智美術館) |
| 2014 | 青磁のいま-受け継がれた技と美 南宋から現代まで(東京国立近代美術館工芸館) |
| 2018 | 川瀬忍 作陶50年の間(菊池寛実記念智美術館) |
| 2018 | 青の時代 現代日本の青磁(益子陶芸美術館) |
<受 賞>
| 1981 | 日本陶磁協会賞 |
| 2013 | 日本陶磁協会賞/金賞 |