「現代において、”金属で何かを表現するという行為”は必要なのか?」という問いかけは、制作を構築する上でかなりの重要性を孕んでいる。この事を、現実感としてどう捉え、確かな領域を模索することにより、その表現は実を結ぶのである。全てに未知数であっても、張り裂ける程の「濃く」ありたい気持ちをもつことによって、社会の一員としてのささやかな位置が設けられるのであろう。
金属作家/ 畠山耕治
「次代の金属」の題下に4人の金属作家の最新作を世に問うて以来3年の月日が経過しました。この間、世界全体が大きな変動と試練とに直面することとなったこと、贅言するまでもありません。
坂井、久米、水代、上田の諸氏にはこの状況下でも倦まず弛まず金工芸術の向上発展に研鑽を積んでこられました。今回の展観で各々の研究成果=精華が実作品に如実に反映されて豊饒な内容となったこと、一目でご理解出来ることでしょう。
3年ぶりに4氏の最新作を公開して、次代に継承される品質と美の競演の場といたしたく、ここにご案内を申し上げます。ご高覧ください。
ギャラリーこちゅうきょ
火を使い、金鎚で叩き、思い通りのカタチに近づけていく
そんな長い作業のなかで、重く冷たくのし掛る「鐵」の感覚が、
まるで正反対のものとして生まれ変わっていく
その瞬間をとりこぼさぬように
手のひらで感じ取れるように
坂井直樹
生物をモチーフとしたオブジェを制作しています。特に、生物全般における内部構造―どんなに小さな生物でも持ち合わせている、生きていくための仕組みを意識しています。
金属は熱を加えると柔らかくなり、加工すると硬化していきます。制作工程の中で様態を変化させる金属は、自分の手の中で育っていくようだと私は感じています。自分がモチーフに対して感じている魅力と同様に、愛でられる魅力を持った作品を制作していきたいです。
久米圭子
金属工芸において、主に加飾を専門とする彫金技法を用いて制作しています。
古来より継承されてきた伝統技法を礎としながらも、自身のフィルターを通し、現代的な素材や手法など様々な要素を取り入れることで、時代性や独自性を意識した新しい表現としての価値を提案していきたいと考えています。
自然物を対象として制作しておりますが、二つの独立して存在する生態を組み合わせて、一つの形態として表すことで生まれる美しさや愉しさを、作品の中に感じてもらえたらと思っています。
水代達史
鉱物として自然界に存在するものを採掘し、不純物を取り除いて精煉し成形されたものが、私たちの身の回りに存在する金属という素材です。そうして作られた表面は金属にとってとても不安定な状態であり、常に錆る宿命のもと、鉱物=自然物の状態に戻ろうとしています。一見硬く閉ざされたかのような印象の金属が、その表面に素材自身がもつ時間性や流動性を表出させる。
それは私に自然に対する畏怖の念を思い返させます。自分の意識と素材の意識(自分の無意識)との境界に形状や景色が立ち現れ、そこから様々な感情を汲み取り作品にすることで、観る者に素材に対する原始的な感情を想起させるような作品制作を試みています。
上田 剛
撮影:S&T photo
| 2019 | 東京藝術大学美術学部工芸科を卒業 |
| 2011 | 東京藝術大学大学院美術研究科彫金を修了 |
| 2012 | 東京藝術大学彫金研究室教育研究助手 |
| 2015 | 東京藝術大学彫金研究室非常勤講師 |
| 現在 | 金沢美術工芸大学准教授 |
<受 賞>
| 2009 | 東京藝術大学/原田賞 東京藝術大学/台東区長奨励賞 |
| 2010 | Via art 2010/審査員池内務賞 |
| 2019 | 淡水翁賞/優秀賞 |
| 2020 | 宗桂会大賞 |
| 1973 | 群馬県に生まれる |
| 2002 | 東京藝術大学大学院博士後期課程鍛金研究室修了、博士学位取得 |
| 2003 | 東京藝術大学非常勤講師(~2005) |
| 2010 | 金沢大学非常勤講師(~2012) |
| 2011 | 金沢美術工芸大学非常勤講師(~2012) |
| 2013 | 金沢卯辰山工芸工房専門員(~2018) |
| 2019 | 東北芸術工科大学准教授 |
| 日本工芸会正会員 |
<受 賞>
| 2003 | 東京藝術大学/野村美術賞 |
| 2010 | 金沢市工芸展 世界工芸都市宣言記念賞 |
| 2012 | 日本伝統工芸金工展/宗桂会賞(2015) 淡水翁賞(美術工藝振興佐藤基金)/優秀賞 |
| 2013 | 世界工芸コンペティション/準大賞 |
| 2016 | テーブルウェア大賞展/大賞&経済産業大臣賞 石川の伝統工芸展/奨励賞 公益財団法人宗桂会/宗桂会大賞 |
| 2017 | 日本伝統工芸金工展/朝日新聞社賞 |
| 2018 | フンボルトフォーラム茶室デザインコンテスト(ベルリン)/最優秀賞 |
| 2019 | 石川の伝統工芸展/第60回記念特別賞 |
| 2021 | 金沢文化活動賞 |
| 2022 | 創造する伝統賞(日本文化藝術財団) |
| 2024 | 伝統文化ポーラ賞/奨励賞(ポーラ伝統文化振興財団) |
| 1985 | 千葉県に生まれる |
| 2011 | 金沢美術工芸大学大学院美術工芸研究科修士課程工芸専攻修了 |
| 2014 | 金沢卯辰山工芸工房修了 |
<展覧会>
| 2013 | 個展(ギャラリーおかりや) 以後隔年 |
| 2017 | 個展(日本橋高島屋アートアヴェニュー) |
| 2020 | 国際伝統芸術招待展(上海芸術品博物館/中国) |
| 2021 | Contemporary Metalworks 変貌する金属(岡山県立美術館) 金工の深化Ⅱ(和光ホール) |
<受 賞>
| 2011 | 修了制作/学長賞、審査員特別賞 |
| 2013 | 清州国際工芸公募展/特選 |
| 2014 | 金沢美術工芸展/金沢市長最優秀賞 |
| 2017 | 公益財団法人宗桂会/努力賞 |
| 2019 | 淡水翁賞/優秀賞 |
| 2021 | 金沢市工芸展/世界工芸都市宣言記念賞 |
| 2024 | 金沢市工芸展/金沢商工会議所会頭賞 |
| 1986 | 奈良県に生まれる |
| 2010 | 金沢美術工芸大学工芸科鋳金を卒業 |
| 2012 | 東京藝術大学大学院美術研究科工芸専攻鋳金を修了 |
| 2022 | 金沢美術工芸大学工芸科講師 |
<展覧会>
| 2017 | ワールド工芸100選(富山県美術館) |
| 2021 | Contemporary Metalworks 変貌する金属(岡山県立美術館) |
| 2023 | 生成 Bringing Things to Life(佐藤記念美術館、富山) |
| 2024 | いもののかたち2024(川口市立アートギャラリー・アトリア) |
<受 賞>
| 2011 | 佐野ルネッサンス鋳金展/奨励賞 |
| 2012 | 東京藝術大学/原田賞 |
| 2022 | 金沢市工芸展/宗桂会賞 淡水翁賞/最優秀賞 |