三川内焼は必ずしも知名度の高い焼物とは申せぬと思いますが、知る人ぞ知る味わい深い作品を生み出して参ったのであります。こう申しますと多少我田引水の咎めを受けることになるかもしれません。と申しますのは、三川内焼は私の十五世の祖、肥前平戸松浦家二十六代法印鎮信が、秀吉の朝鮮出兵に同道し、その終了後に連れ帰った熊川の陶工達により始められた陶業であり、各代の藩主の意向を受けて平戸藩窯として発展して参ったという経緯があるからであります。陶工達は李朝の白磁を再現することを目標に苦心を重ね、良質の陶土、陶石の発見を経て、三川内焼の一大特徴である純白のしかも温かみのある磁膚を得るに至ったのであります。その膚に繊細、時に意表をつくような大胆な絵柄、特に三川内独自の唐子絵等を巧妙な筆運びを以って描いた呉須絵を特徴としています。その他、細工物にも他の焼物に見ることのできぬ緻密さを誇っています。旧藩時代より続く武家茶道の一派、鎮信流を主宰する私にとり、三川内焼はなくてはならぬものであります。その伝統の基礎を創った陶工の一人、今村如猿を祖に持ち、その風を今に伝えるのが今村均氏の平戸窯悦山であります。百聞は一見に如かず、氏の作品をご覧になることを是非お勧めいたします。
平戸松浦四十一世 松浦 章
平戸藩の庇護の下、幕府への献上品や輸出品を制作してまいりました江戸時代から14代続く、伝統を守りながら、先人たちの名品に学んだ、新たな作品をご高覧いただければ幸いです
今村 均
白磁を基調として制作活動される作家は基本形態に鋭意を凝らし、面取り、鎬(シノギ)等による彫りと削りの技法を駆使して独自の造形を工夫されていること、古来我が国だけではないとみます。
白磁でなにを表現するのか?将来に伝承され残るべき白磁とはなにか?
長崎は佐世保、三川内にて近世初頭から制作の営為を積まれてきた平戸窯悦山のご当主一四代悦山こと今村均氏の白磁の「しごと」の精髄をご紹介する好機となりました。
超絶技巧をごく自然体に施す今村氏の手わざは単なる技法以上のもの、自然界への真摯かつは優しいまなざしが作品のひとつひとつに表出、刻印されているとは一見して感得されることでしょう。
「虫かご」「菊摘青海波水指」「蟋蟀白菜香炉」の目覚ましい繊細性、「菊飾のし押え」「天目形煎茶、茶托」が持つ高い品位など、今村氏の持つ最大の制作技術と度量の大きさが見事に発揮された作品構成となりました。
今回は一五代を継承される今村ひとみ氏の最新作も併せてご紹介いたします。
次代に受け継がるべき白磁の真骨頂に出会う場となります。
ぜひご高覧ください。
ギャラリーこちゅうきょ
今村均 陶歴
1942 長崎県佐世保市三川内町生まれ
1961 高鶴夏山に師事
父、今村鹿男に師事
2014 「捻り細工技術」佐世保市指定無形文化財 指定
2019 天皇陛下御即位に長崎県より白磁細工「菊花 虫かご」献上
2021 「三川内焼 細工技術」長崎県指定無形文化財保持者 認定
2024 長崎県特別教育功労者表彰
佐世保市政功労者表彰
[個展・展示]
2010 「一四代平戸悦山展」 サンロッコ教会/イタリア・ゲンメ
2013 「一四代平戸悦山 KAKUFUSA展」 アートギャラリー/ホテル椿山荘東京
(~2016、2018年開催)
「白龍」「虫かご」 The Dolder Grand Hotel /スイス・チューリッヒ (~2016)
2014 「長崎 みかわち焼展 江戸の美、明治の技、現代の匠」 渋谷ヒカリエ
2017 「一四代平戸悦山 KAKUFUSA展」 藤田美術館/大阪
2018 「一四代平戸悦山 KAKUFUSA展」 そごう/広島
2019 「一四代平戸悦山 KAKUFUSA展」 そごう/大宮
2020 「一四代 平戸窯悦山展」 そごう/千葉
「一四代 平戸窯悦山展」 西武/池袋本店
2022 「一四代 平戸悦山 今村均展」 松坂屋/名古屋
「一四代 平戸悦山 今村均展」 そごう/横浜
「平戸悦山をつぐものー今村均白磁展」 野村美術館/京都
2023 「長崎県無形文化財 一四代平戸悦山 白磁展」 そごう/広島
[収 蔵]
1993 「菊摘手桶水指」 長崎県立美術博物館
2006 「lotus」 Museo di Doccia(陶磁器美術館)/イタリア・フィレンツェ
今村ひとみ 陶歴
1976 長崎県佐世保市三川内町生まれ
1997 有田窯業大学校 本科卒業
1998 有田窯業大学校 研究科卒業
1998 有田窯業大学校 下絵付科修了
1998 父、今村均に師事
2015 第55回全国推奨観光土産品審査会 舌出三番叟人形 推奨品認定
2024 第120回有田国際陶磁展 白磁細工菊花飾花器 入選