留守 玲
熔接することが私のあたり前となり、
美しい熔融現象の発見にも、今は平静な心持ちです。
自分の常など何でもないと思いながら
鉄を触ってみたら、均質な工業資材の
湾曲、潰れ、伸び、ちぎれといった、
熔融以外の状態変化に情が働く様になりました。
刹那と劫をかき混ぜ、その攪拌速度を捉えようとすると、
私の場合、素材への体当たりが生じます。
僅かな自由を獲得することが出来た様な気がしました。
手にした鋼材の、どの段階の変容にも目が向きます。
この目線に引っ張られ、戯れながら、
台とその上に置くものを作りました。
作品と作品との往来、
上下左右への視点の往還を繰り返しながら関係性を観察し、
鋼材の事象と変容をどこに据えるかを探っています。

当店を舞台とする二度目の個展「Cut’ SPCC 変容速度の自律」は益々深みを増す留守作品の造形美と共に、台を伴う新たなアプローチを皆様にご紹介できる場となりました。
作品を支える台座は本来、主役である造形を鑑賞しやすい位置へと引き上げるための舞台装置としての役割を担います。そのためあくまで作品に添う黒子として、個性を抑えた存在であることに終始します。
しかしながらこの度の作品群と対峙いたしますと、そうした従来の範疇とは全く異なるベクトルからの作用を慎重に、じっくりと積み重ねた結果であることが伝わって参ります。
無数の熔解と熔接を幾重にも施すことで生み出されるダイナミックなうねりと繊細な波動を、単に受け支えるためだけではなく、時に寄り添い、時に同化し、時には影響すら与える両者の不思議な呼応。それは上下があって初めて語られるそれぞれの物語を見る者に静かに伝えようとしているかのようです。
ぜひ皆様のご高覧を賜りたく、ご来場をお待ち申し上げております。
主催 ギャラリーこちゅうきょ
作品写真撮影:斎城卓

| 1976 | 宮城県に生まれる |
| 2002 | 多摩美術大学大学院美術研究科修了 |
| 2015 | 多摩美術大学工芸学科 非常勤講師(~2022) |
| 2023 | 多摩美術大学工芸学科金属プログラム 准教授 |
<展覧会>
| 2004 | 拡兆する美術TSUKUBA2004(茨城県つくば美術館) |
| 2007 | 〈素材×技術〉からフォルムへ-布と金属-(茨城県つくば美術館) 工芸の力-21世紀の展望(東京国立近代美術館工芸館) |
| 2012 | 留守玲の茶室 さびのけしき(山口県立萩美術館浦上記念館) |
| 2014 | MOA岡田茂吉賞展(2019) |
| 2016 | 生への言祝ぎ(大分県立美術館) |
| 2018 | 東京国立近代美術館工芸館名品展 いろどりとすがた(石川県立美術館) |
| 2019 | アートみやぎ2019(宮城県美術館) |
| 2022 | Contemporary Metalwork変貌する金属(岡山県立美術館) |
<受 賞>
| 2001 | 熊本総合美術展21世紀アート大賞2001/熊本放送賞 |
| 2003 | 日本現代藝術奨励賞(財団法人日本文化藝術財団) |
| 2008 | 神奈川県美術展工藝部門/特選 |
| 2016 | タカシマヤ美術賞 菊池寛実賞 |
| 2017 | 淡水翁賞/最優秀賞 |
| 2020 | 国際工芸アワードとやま/優秀賞 |